愛は寛容であり、愛は情深い。

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私は普段クリニックで外来患者さんの治療をしていますが札幌に訪問診療の仕事にも行っています。


地域医療の憧れもあり、故郷に貢献したい気持ちと、ちょっとした小旅行的なワクワクも堪らなく、週に一度そんな夢のような仕事をしています。
歳をとるにつれ望郷の念と申しますか、北海道の大地に降り立つだけで昔と変わらぬ懐かしい空や香りの感覚に、胸が一杯になります。
雄大な景色が都会の閉塞感から解放してくれる貴重な機会でもあります。



さて、施設に入所なさっている患者さまはご高齢の、認知症であったり、うつ病や統合失調症、せん妄などの、疾患は様々です。
先日こんなやり取りがありました。


ほぼ寝たきりで介助が必要な90過ぎのS様は、ご主人の面会を何より楽しみにされています。
食の進まないS様にプリンやお茶を口に運び、好物の梅干しを差し入れたり。

優しい旦那さんですねと言うと、にっこりと「最高だ。」と。
でも、自分が何もできないことを不甲斐なく感じて悔やまれているのです。悲しみを抑えて「何もできなくてすまないね」と。
ご主人はS様のことを照れながら、「なあに、ウチのがこんなに一生懸命やってくれてさ。最高だ。」と男らしく頼もしくおっしゃいます。
Sさん、最高ですって。うふふふ!と耳の遠いS様に私が伝えると、ふわっと表情が明るくなりそっと布団から両腕を伸ばして、ご主人に差し出すと・・・『有難う。』とご主人も手を握り返します。


そんなお二人の愛情に満ちたやり取りを間で見ていた私は、思わず泣き出しそうになりました。
こんな思いやりに溢れて、見返りを一切求めない、優しすぎて尊い、献身的な愛・・・

お二人の愛情の炎が私の心にも静かに燃え移るような瞬間でした。



自分ばっかりが・・・。
これをしてあげるのに・・・。
こんなこともしてくれないで・・・。

そんな思いを手放して、相手を生涯大切にすること。それが幸せの秘訣なのではないでしょうか。


北海道の氷点下の冬の空気を吸い込みながら、心にはとても温かな炎が灯っている札幌の帰りでした。

暗くなるこの時期、白金台の紅葉も気分を明るくしてくれます。